「スポーツと税金と…」 自分の街にプロスポーツクラブがやってくる。 自分の街の名前は国内、さらにそのクラブが活躍すれば世界中に広がる。 シーズン中は地元チームの戦いぶりに一喜一憂できるだろう。憧れの選手も生で見ることができる。 ただし、チームを呼ぶために税金と言う形で自分の収入からお金が出ていくが・・・。 メジャー、マイナー、ほぼ全てのスタジアム建設が何らかの形で行政から補助を受けている。新スタジアムが完成すると、お客さんは増え、収入が増える。クラブ、オーナーとしては嬉しい限りだ。 ただし、スタジアム建設には莫大な費用がかかる。 アメリカの行政が数ある公共事業の中から、スタジアムを建てるために税金を捻出できるのもアメリカ人が「スポーツが好きだ」と、言うこと以外他ならない。 極論から言えば、充実した教育よりも、プロスポーツチーム誘致が優先される。 行政の大きなバックアップを受けているからこそ、各クラブはファンや地元地域には優しくしなければならない。 また、納税者の中にはスポーツをあまり好まない人もいるから彼らを納得させるポジティブな活動もプロスポーツクラブには要求されるはずだ。 日本サッカー協会の川淵キャプテンが、口を酸っぱくして「地域密着」と、言い続けている。現状を理解することで彼の言葉の意味が見えてきた。 しかしながら、クラブは納税者を納得させるほどの態度を示しているかと言うと、私にはそうは思えない。ファンにサインをする選手は減ってきているし、チケットの値段は年々上がる一方だ。 「税金を投入したところで、おいしい思いをするのはオーナーと一部の高額年俸選手のみなのではないか?」 そんな思いを胸にフロリダへ飛び立った。 メジャーリーグキャンプ地の多くも行政の援助で賄われている。 しかし、フロリダに関しては、私の考えは間違いだった。 ロサンゼルス・ドジャースのキャンプ地、ベロビーチ。 レストランで腹ごしらえをしようと店に入る。チェーン店なのにクレジットカードの機械もなければ、飲み物を飲むストローもここ数日切らしているという。店員は南部訛りの英語。すべてがノンビリしている。 スタジアムでは隠居のおじいさん、おばあさんがフィールドを見つめ、「うち(ドジャース)はレッドソックスから流れてきている連中が多いのォ。あのピッチャーはマイケル・ローだっけ?いやいや、デレック・ローだ」。 現代の時間の速さからとり残されている村、ベロビーチ。 キャンプ中のみとはいえ、ドジャースはベロビーチの老人たちに日常では味わえない楽しみを与えている。 ワシントン・ナショナルズがキャンプを行っているビエラに足を運んだ。相手はメッツ。 高速を降りるとスタジアムまで一本道が続く。スタジアムの周りには全く何もない。 フィールドでは入来祐作がメジャー入りへ向けて必死に頑張っている。 その一方でスタンドはなんとも微笑ましい。後ろの席の老人がどうやらダブルデートをしているようだ。 (老人A)「お宅の嫁さんはスポーツ好きなの?」(老人B)「いんや、どうも野球はねえ。スロー過ぎるらしいのォ。ホッケーは興味があるらしいんじゃけど、第3ピリオドがあるのが納得いかないじゃって。前後半で終わらせにゃあ」。 後ろを向いてみると、おばあさん達2人は席にいない。きっと日陰で会話に花を咲かせているに違いない。 メジャーのオープン戦を観にいくと、どこのスタジアムでも例外なく売店、チケットのもぎり、ゲートの係員は老人だ。皆、実に生き生きと、楽しそうに仕事をしている。 デトロイト・タイガースがキャンプをするLakelandの売店係のリーダーに話を聞いた。 「ここで働いているのは、お金のためじゃない。楽しむために働いているんだ。みんな引退して時間もお金もあるからねえ。ま、もっとも俺はセブンイレブンのチェーン店をもっていて、24時間品出しオペレーションに飽きて店を売ったけど、実際やっていることは変わらないなあ。ま、こっちの方が断然楽しいけどね。」 フロリダは引退した老人が沢山住んでいる。彼らは時間をもてあましている。アメリカの老人の娯楽はビンゴと相場が決まっているが、さすがに毎日ビンゴだと飽きてしまうだろう。 2ヶ月間のみだが、税金を投入することで彼らに「野球」という非日常をプレゼントすることが出来る。また、野球を見せるだけでなく、彼らに売店で働く機会を与えることが出来る。素晴らしいことだ。 教授が「アメリカ人はスポーツ(エンターテイメント)を求めているから、行政は莫大なお金を出す」と、言うことを教えてくれた。 私はクラスの中で納得いかなかった。行政はオーナーのビジネスを税金で助けているだけの様に見えた。 しかし、現場に来てみるとまた違った面が見えた。スポーツは単に観戦するエンターテイメントビジネスだけではなく、様々な要素が絡んでいる。例えば老人の生きがいとか。 それを踏まえたうえで、プロスポーツチームを誘致するために税金を使う行政をあなたは支持しますか? 私? 私はスポーツでみんなが幸せになれるのであれば支持します。
「スケジューリングの妙とは?」 日本プロ野球06シーズンの日程が発表された。 メジャーリーグも大筋のスケジュールが発表され、各マイナーリーグ、独立リーグも発表はしないまでも関係者の間では決まっているはずだ。 このスケジューリングがかなり複雑なのである。 Organization & Administration of Sportsというクラスがあった。 この授業ではスポーツクラブ運営において必要なポイントを習い、そして模擬運営をした。その1つがスケジューリングである。 30人のクラスを5組に分け、各グループを大学スポーツリーグと言う形にした。そのリーグには3つの競技があり、各スポーツのスケジューリングをした。 ここでのポイントはただ闇雲に試合を組めばいいと言うわけではないこと。 各生徒はホームタウンを定め、そこから相手校までの遠征にかかる時間を計算したり、うまくホーム&アウェイが続くように調整したり、1つの学校が週末ゲームを独占しないようにするなどきめ細かな配慮が必要だった。 ホームゲームが7試合続いたり、遠征時間を考慮しない試合開始にしてしまったら教授は容赦なく減点してくる。 スケジューリングミーティングは難しい作業ではなかったがとても複雑だった。 ある生徒が記入ミスをしたため、全員のスケジュールに不備が出てきたこともあった。僕らはあくまでもシミュレーションなので、うまく組めればいいと言うことでやっていた。 しかしプロスポーツクラブの担当者は、可能な限り集客が望める日(休日、週末、夏休み等)を採りたい。 会議室での激しい攻防が目に浮かぶ。日程が発表される前から戦いは始まっている。 さてこの模擬スケジューリング、日程をすべて組んだ後がまた面白い。 組んだからにはもちろん試合をする。おのおのがサイコロをもって授業に行き「ゲーム」をする。サイコロをお互いに振り合い、出た目の大きい方が勝ちという単純明快なゲームをスケジュールどおりに遂行する。各リーグチャンピオンはプレイオフを行い、決勝戦はクラスメイト全員が見守る中、「サイコロゲーム」を行った。 このチャンピオンに必要なのは運のみだが、それでも優勝者にはボーナスポイントが与えられ、学業成績に反映されたのだった。 「ジレットスタジアムとリバプールFCについて考えてみる。」 05シーズンのメジャーリーグは、シカゴ・ホワイトソックスが久しぶりにチャンピオンズトロフィーを「ウィンディーシティー」に持ち帰るという結末で終わった。 私のシーズンも8月いっぱいで終わり、今はマサチューセッツのキャンパスに戻り残り短い学生生活を楽しんでいる。 今学期のスポーツクラスの目玉はSports Venue Managementと言うクラスだ。 どのようにスポーツ施設を建て、どのように運営するかを学ぶクラス。 先日地元NFLチーム、ニューイングランド・ペイトリオッツとMLSチーム、ニューイングランド・レボリューションのホームグラウンド、ジレットスタジアムについて学んだ。 先日、イングランドプレミアリーグ、リバプール FCの株式問題が世界中で取り上げられた。 ニューイングランド・ペイトリオッツのオーナー、ロバート・クラフトがリバプールの株式を購入したいと報道されていた。加えて、リバプールはクラフトグループから新スタジアム建設のノウハウを取り入れたいと紹介されていた。 クラフト氏はペイトリオッツの事を溺愛していて、このチームのために約360億円をかけてジレットスタジアムを建設した。 いくらアメリカは日本よりスポーツが栄えているとは言え、スタジアム建設のためだけにこのような大金を簡単に出せる企業はない。従って行政の助成金を頼ったりにしたり、地元行政に債券を発行してもらい、それを建設費に当てると言うのがポピュラーな方法である。 そんな中クラフト氏は100%、企業だけのお金でジレットスタジアムを建設した。 ビリオネア(大富豪)のクラフト氏とは言え、360億円を一括で払うことは出来ない。従ってローンを組んだ。 そのローンの組み方が素晴らしかった。スタジアムの収益を最大限に広げたビジネスプランを融資先に提出し、今までに例がないほど利率を下げることに成功した。 新聞紙上でリバプールは建設費の増幅に悩んでいると報道されていた。 これは想像の域だがリバプールはクラフトグループと関係を持つことでこの辺のアドバイスが欲しいのだろう。 株式のやりとりについてリバプール地方では、今年初めのマンチェスター・ユナイテッドのケース同様、何か論争が起こるかもしれない。しかしこのように国を超えて行う有意義な情報交換は素晴らしいことだ。 ワールドカップのために建てたスタジアムの維持費に悩む日本も、学ぶ点があるのではないだろうか。 9月7日「インターン終了」 初めてフロリダに着いたとき、1月なのに半袖でいられるほどの暖かさに驚いた。到着ターミナルから見える景色は正に南国で、アメリカ生活の中で寒い地域にでしか生活をしたことがなかった私にとって、実にうれしい光景だった。 あれから早いもので8ヶ月が経ち、私のインターンシップも終了した。月並みではあるが色々な事があった8ヶ月間だった。 一番大きかったことはチームの中で、スタジアムビジョンのスペシャリストであると同時に印刷物等デザインの専門家というポジションを確立できたことである。 これは今後の進路で大きな武器になってくれるはずである。 逆にもっとも苦しかったのは雨天の試合運営、直接言えばタープとスクイージー作業である。これは出来ることであればもう二度と味わいたくない部類のものだ。 Lakeland Tigers Japan Dayが終了した翌々日、私はLakelandを離れた。 通常試合のある日は、イニング間に流すDetroit Tigersのすべての参加チームの結果、個人成績をアップデートし試合に備える。つまり朝オフィスについたら、Tigersのインフォメーションを隅から隅までチェックしていたわけだ。 ルーティーンワークではあるが、決して退屈な作業ではなかった。それをもう何日も行っていない。少し寂しさを感じる。 今回のインターンシップを経験して様々な疑問、発見があった。 大きなレベルで言えば地域密着の有り方。身を持って感じたアメリカ式、ヨーロッパ式、日本式の経営方法。 個人のことであれば「フィールド上で何かしらの仕事を得たい」という想い。 私のDetroit Tigers Florida Operationインターンシップは終わったが、今回の見習い期間はこれから始まる大きな舞台への初めの一歩にすぎない。 私のゴールはやはり、ビジョンと音楽を効果的に使ったスタジアム演出なのではないかだろうか、と強く感じている。(もちろん最終地点に達する前に現場の仕事のお話があれば大歓迎だけれど…) 自分はまだまだ若輩もので、偉そうなことを言えないが、これからスポーツの仕事を持ちたい人に提言をするとすれば「具体的にスポーツで何をしたいか?」を持ってその道を頑張って欲しいと思う。 スポーツビジネスでも、グループチケット営業のスペシャリスト、イベント企画、試合運営など様々な面があり、フィールドに目を移せばグラウンドキーパー、トレーナー、ストレングスコーチなど一言にスポーツといっても単純ではない。漠然とスポーツが好きでSports Managementを専攻しているだけでは何もついてこない、というのが今回のインターンシップを通じて感じたことだ。 今週から、私は大学に戻りもう1年クラスをとる。 1月からの責任、忙しさを忘れリラックスしたスクールシーズンにしたい。(もちろん十分な成績で卒業することが第一の目標だけれど。) その学生生活とデザインのイロハ、音楽の知識を増やすことも同時に行いたい。スタジアム演出者になった時にここで充電したものが生かせるはずである。そのためには色々なイベントに参加し、バラエティにとんだスポーツイベントに足を運び、ライブや映画、美術館で自分の感性を磨きたい。 最後になりましたが、足掛け八ヶ月、「マイナーリーグ職員奮闘記」を応援してくださりありがとうございました。 またいつか「メジャーリーグ職員奮闘記」で帰ってくる日を目指しがんばります。 武藤 雄太
8月29日 「Japan Day奮闘記その3」 8月27日、Lakeland Tigers初の試みである「Japan Day」は雨のため中止に終わった。 それでもゲートを開けギリギリまでゼネラルマネージャー、審判が試合の有無を議論した。 開門したおかげでお客さんにはフィールドの代わりにコンコースで和太鼓を楽しんでもらえたし、自分が用意したものの7割はお披露目できた。楽しんでいる様子がファンの顔からも伝わってきた。人間を楽しませるという観点から見ると今回のイベントはある程度成功したのではないだろうかと自分では思う。 結果的に大被害を出すことになるハリケーン「カトリーヌ」が接近していた時点で、私は中止になるのではないかと予想していた。招待した日本食販売のレストランからは大損害を出したと大目玉をくらい、和太鼓チーム、メインスポンサーの旅行代理店から厳しいお言葉をいただくのではないか、とも覚悟していた。 屋外イベントは晴れてなんぼの世界だ。少し雨が落ちてきただけでも客入りに大きな影響が出てくる。 実際、前売りの段階ではチケットが今ひとつ捌けていなかったのでGM、親身になって相談に乗ってくださる方々から注意をいただいた。 しかし、雨にもかかわらず当日券だけで約300枚売れたことは非常にうれしいことだった。前売りチケットと合わせて約800人の方々がJapan Dayに訪れてくださった。 平均で約600人しか集めることの出来ないクラブが悪条件にもかかわらずこの人数を集めたのだから、集客の面では胸を張っていいだろう。 ただ一つ心残りがあるとすれば、和太鼓ショーの第二幕が出来なかったことだ。 予定では試合開始20分前に、まず依頼した団体の持ち芸をやっていただき、一度その場で待機。その後Lakeland Tigersのスタメン発表時において普段かける音楽の代わりに、太鼓のリズムで演出しようとしていた。 第一幕はグラウンドの代わりにコンコースで公演できた。しかし試合は雨のため始まらなかったので、メンバー紹介そのものがなかった。 試合一週間前の和太鼓練習の際に、「和太鼓スタメン発表」をすれば観客を盛り上げるだけでなく、選手も鼓舞できると確信していただけに是が非でもやりたかった。おそらくこのような形で選手紹介をしたクラブは無いはずだからだ。 このイベントを通して責任の重さ、コミュニケーションの難しさ、人と人とのつながりの大事さを身を持って体験させてもらった。 この経験は、スポーツイベントの作り手として大きな財産になるだけでなく、その他の仕事でも重宝できるはずだ。色々と揉め事はあったが、この企画にGoサインを出し、発表の場を提供してくれたLakeland Tigersには感謝している。 また、ボランティアで力を貸してくださったアイさん、晃君(もう1人いたのですが、お名前を伺うのを忘れていました)。和太鼓パフォーマンスをしてくださった「祭座ジュニア」の皆様。わざわざタンパから日本食を売りに来てくださった「皐月レストラン」様。「キーライム通信」紙面を提供してくださったノリコ様。タンパ、オーランド両日本人学校の関係者の皆様。地元新聞Ledgerの記者Yates氏。Lakeland今治市、姉妹都市委員会の皆様。「IACEトラベル」の猪俣さん、新田さん。景品を提供してくださった「スシオロジー」様、「コトブキストアー」様、「新月」様。相談に乗ってくださった櫻田さん。ありがとうございました。 8月18日 「Japan Day奮闘記その2」 Japan Dayの準備で忙しい。 イベントの告知、中身の調整ならびに作成、協賛企業のあいさつ回りなど、一人で全部やらなくてはならない。 以前大学で、同時期に3種類の大きな課題がぶつかったことがあった。その当時、時間のやりくりが難しく歯を食いしばって頑張ったが、今回はその比ではない。学業は自分だけの責任だが、この催しは沢山の人に協力してもらっている。私に力を貸してくださる方々のことを考えると、動かないわけにはいかない。 そんな中、私の一番苦手な仕事がイベントのPR、すなわちビラ配りだ。 大都市と違い、レイクランドは地下鉄をはじめとした公共の交通機関がない。したがって、大きな駅前で見るティッシュ配りのようなことはしない。お店、学校、レストラン等に飛び込みで足を運び、ビラを置かせてもらうように一軒一軒頼む。 スーパーマーケットは人が沢山集まるので是非設置したい店舗の1つなのだが、この手の商店はフランチャイズ化が進んでおり、よほどのことがない限り承諾してもらえない。マクドナルドをはじめとしたファーストフード店も同じである。 この業務の中での喜びは、お店側が喜んでビラを受け取ってくれた時である。 これが直接チケット売り上げにつながるかどうかわからないが、担当の人の顔を見ればその人がちゃんと依頼をこなしてくれるか、私が帰った後ビラを捨ててしまうか、なんとなく想像がつく。 レイクランドで一番大きなシェアを誇るフランチャイズ、Publixというスーパーに行ったとき、ストアー・マネージャーさんがビラのこと、イベントのことを物凄く褒めてくれた。ちょうど疲労、イライラが溜まっていた時だったので、例えそれがリップサービスだったとしてもとてもうれしかった。 ビラ配りがスムーズにしかも、喜んでビラを受け取ってくれるととても気分がよく、体が軽くなった気がする。 これからの1週間は地元をメインに回る予定である。 ローカルメディアを使ったPRも控えているが、レイクランドの人たちに気に入ってもらえるように東へ西へ走り回ろう。
8月11日 「恐怖のスクイージー」 フロリダ・ステート・リーグに付き物が雨。本当に良く降る。 その様子は以前もこのコーナーでも紹介したが、季節が移るにつれて雨が降る時間帯が早くなり、最近では雨が止んだ後、試合をするケースが多くなった。 このパターンが私たちインターンにとってたまらない。 以前はタープ(内野の雨よけシート)の広げ閉じ作業が一番面倒な仕事だと思っていた。しかし究極につらいのは「スクイージー」である。 雨が止んでタープを閉じる。内野はほぼ無傷の状態で今にでも試合が出来る。しかし外野には水溜りがあったり、水を含みすぎて滑りやすい部分もある。いわゆる田んぼのような状態である。そんな時に出動するのが「スクイージー」である。 トンボのような形の用具で、先端には土をならす板の代わりに直方体のスポンジロールがついている。それをモップかけの要領で芝生に押し付けて転がし、しみこんでいる雨水を乾いている部分に押し出すのである。 これがつらい。転がしても転がしても水は中々広がってくれず、増えるのは達成感よりも疲労感ばかりだ。 タープを片付けた後、約1時間はこの作業を行う。 クラブハウス横でリラックスしている選手がなんとも羨ましい。 デイトナ・カブスの日本人スタッフによると、彼らはこの作業をしないという。そしてタンパ・ヤンキースにいたっては、試合中に雨が降ってくるとタープを広げるどころか、すぐに諦めて試合を中止にしてしまうらしい。 もしかすると、レイクランド・タイガースが一番天気と格闘しているクラブなのかもしれない。 8月3日「Japan Day奮闘記その1」 スタッテンアイランド・ヤンキースが松井秀喜を招いて「日本祭り」を開催したことは日本でも大きく取り上げられた。その報道を見た方からすると「パクリだ!」と思われてしまうかもしれないが、レイクランド・タイガースでも8月27日に「Japan Day」を開くこととなった。 内容は試合前の和太鼓ショー、コンコースに折り紙プレゼントコーナーや、漢字のフェイス・ペインティング・コーナーを設けて既存のファンに日本文化を楽しんでもらう。 試合中は今アメリカで人気のパフィーや、世界中の誰もが知っている「スーパーマリオ」の音楽などで試合を盛り上げるつもりだ。 レイクランドはニューヨークと違い、日系の企業がほぼ無いに等しい。従って企業からの支援は期待できない。スタッデンアイランドのイベントには日米往復航空券など豪華プレゼントがあったらしいが、レイクランドで同じことは出来ない。 その代わり私はスタジアムビジョンを毎日扱っている。今回は選曲権ももらっている。この経験、シチュエーションをうまく使ってスタッテンアイランドとは一味違った「Japan Day」を作りたい。 コンセプトは“日米交流”。 噂によると、スタッテンアイランドでは松井が帰った後、多くの日本人ファンがスタジアムを後にしたらしい。それではつまらない。試合の最後まで楽しんでいってもらいた。 レイクランドの「Japan Day」ではアメリカ人が日本人に向かって「三振!」と叫んでみたり、7回には国籍関係なくみんなで「Take me out to the ball game」を大合唱してもらえるよう計画中だ。 ここまで作業をしてみて、想像以上に反応が良かったこと、逆に思ったよりも冷たい反応を受けたこと、様々である。 8月いっぱいでレイクランドを去る僕にとって、これが最後にして最も大きなプロジェクトになる。うまくいくかどうか、これからの約20日間の頑張り次第だ。
7月24日「スポーツ・ビジネスの一面」 先日、「ドイツの四部リーグのサッカークラブが1シーズン通してベンチに入れる権利をオークションにかけたところ約1400万円の値段で落札された」というニュースをインターネットで見た。 大学のSports Managementのクラスで最初に教授が私たちに言った言葉を思い出す。 「Sportsを売るということは、スーパーでパンや洗剤を売るのとは全く異なる」。 パンや洗剤は生きていくうえでなくてはならないものだが、残念ながらスポーツがなくても人間は生きていける。だからこそスポーツを売るということは難しい。スーパーはパンや洗剤と言った「日常」を売れば良いが、スポーツは「非日常」を売らなければならない。 四国アイランドリーグでも今回のオークションと似たようなことが行われているそうだが、このドイツ四部リーグクラブの商品はまさに「非日常」を全面に押し出している。 スポーツファンにとって、憧れのアスリートと彼らの仕事場で一緒に肩を並べられることは誕生日やクリスマス、人によっては彼女(彼氏)が出来た時よりもうれしい時間だ。 従って今回の企画はスポーツ・マーケッターにとって、とても良いお手本だと思う。 スポーツを売る人間はこのような「非日常」を常に作り続けなければならない。 昨年行われたNew York Yankees日本開幕戦しかり、この夏のManchester United Japan Tourしかり、この様な世界を代表するクラブが日本で試合をするなんて「非日常」といわずなんといえよう。 スポーツ産業は表向き「サービス業」かもしれないが、スポーツビジネスは、「クリエーター業」の側面強いのかもしれない。 7月21日「続タープ」 ついに夏がやってきた。外に出ると暑い。 オフィスから約500メートル先のスタジアムへ移動するだけで、試合中のおやつ用に持っていったチョコレートが溶けてしまう。 アメリカは東京と違って湿度が低いと思われがちだが、フロリダは例外で湿度が異常に高い。眼鏡をかけて冷房の聞いた場所から外へ出ると一瞬にして眼鏡が曇る。これには少し驚いた。 暑さと同時に熱帯地方の夏につき物なのがスコールである。 少しひらけたところに出ると、雨を降らしながら移動している雲というのがはっきりとわかるの。強い雨のことをWaterfall(滝)と天気予報で表現することがあるが、まさに動く滝のようだ。 このスコールが野球を仕事にしている人間にとってたまらない。以前このコーナーで書いたように、今までは不定期に雨が来ていた。しかしこの時期はほぼ毎日決まって試合開始1時間前くらいに物凄い量が一気に降ってくる。その度に僕らはタープ(内野に敷く雨シート)を引きにスタジアムへ走るわけである。 その昔、現在野球評論家の権藤博氏が毎日のように登板したことから「権藤、権藤、雨、権藤」と言われていたそうだが、フロリダでは「タープ、タープ、晴れ、タープ」である。 フロリダマーリンズの世界一達成後、「ドーム・スタジアムを市が建設しない限りマーリンズは移転する」という話が出ていた。 当時の僕には理解できなかった。優勝したのになぜ? しかし今の僕は十分にその訳を実感している。 7月10日「前期チャンピオン記念Tシャツ製作秘話」 前期チャンピオン記念Tシャツがついに販売された。 自分のデザインが商品になるなんて感激である。店頭に並んだのは紺、白あわせて96枚。100以下という点から数量限定と想像される方もいるかもしれないが、決して限定販売というわけではない。「マーケットの小さいフロリダ・ステート・リーグでこの数はかなりの大口注文だ」と発注業者の方が言っていた。つまり、商品を作成してもあまり売れないのである。 しかしながらこのチャンピオンTシャツ、2日目にして両カラーともMサイズは完売。上々な滑り出しである。 アメリカのスポーツで優勝が決まった瞬間、選手は即座にその記念Tシャツに袖を通す。そして早ければ翌日、遅くとも数日後には同じものが店頭に並ぶ。 デザインを見ると、どのチームが勝ってもなんとなくタッチが同じに見える。それもそのはず、実はTシャツ業者があらかじめチーム名、マスコットマークのところを空けておき、優勝ロゴをデザインしているのである。 先日、レイクランド・タイガースのグッズ担当の所へミーティングに行った際、そのサンプル・デザインを見せられた。 担当者は自分の母親より年上のおばちゃん。 タイガースがリーグ制覇した際に備え、リーグ・チャンピオン記念Tシャツの話をすると、「今回の完全オリジナル版・前期チャンピオン記念Tシャツの作成は骨が折れた。次回はこのサンプルの中から決めたい」と言われた。 残念だが業者のデザインはオリジナリティがない。(偉そうなことはいえないが) そしてまた、私のパソコンの中には、もうすでにリーグ・チャンピオン記念Tシャツのデザインが8割方出来ているのだが…。 このミーティングでいくら良い案が出たところで、チームが優勝しなければそのアイデアもボツである。 グッズ担当のおばちゃんを説得しつつ、チームが優勝することを願い、さらに前期チャンピオン記念Tシャツが早急に完売することを願う今日この頃だ。 7月7日「ジャスティン・ヴォーランダー」 7月4日はアメリカの独立記念日である。 この週末は決まって3連休なのだが、この連休期間中はどこに行っても人だらけである。日本でいうゴールデンウィークに近いものがある。 スポーツイベントも例外ではなく、普段では信じられないような観客動員が期待できる。 レイクランド・タイガースは普段500人観客が入れば良い方なのに、この日は約3300人の観衆が集まった。 その裏で、僕らタイガース・スタッフにとって、自分達の試合以上に気になることがあった。以前この奮闘記でも少し触れた、ジャスティン・ヴォーランダーがメジャーリーグ・デビューを果たした。 ジャスティンは前期終了とともにダブルAのエリエ・シーウルブスに昇格、そこで2試合を投げ、文句なしの成績を残した。 その後、デトロイト・タイガースがクリーブランド・インディアンスと独立記念日にダブルヘッダーを行うこととなった。タイガースの2戦目の先発投手が足りなくなり、急遽ジャスティンが呼ばれたのだ。 僕らはレイクランドの試合運営の傍ら、逐一、携帯電話のインターネットでジャスティンの様子をチェックした。 5.1イニングを投げ、4失点、4奪三振。 チームはその後、追加点を取られ0-6で敗れた。 やはりメジャーはすごい。 シングルAではジャスティンがマウンドにいると、相手の4番バッターまでもがレベルの差を認め、セーフティバントを試みていた。それほどまでの投手がメジャーではごく普通の投手なのだ。 回りの連中は「まずまずのデビュー」と言っていたが、僕はもっとやるものだと思っていた。 翌日ジャスティンはすぐにエリエに帰った。敗戦投手になったからではなく、はじめからこの1試合にしか投げさせない決まりになっていた。 アメリカのスーパーマーケットのレジの横には野球カードコーナーがある。 ジャスティンのパッケージのトレーディングカードがデレック・ジーターのものと並んで売られていた。 彼のパッケージを発見した時は自分のことのように嬉しかった。 ジャスティンは本格派右腕だ。いつの日かジャスティンがロジャー・クレメンスのような大投手になることを僕は信じている。 そしてそうなった時、僕はこう言うだろう。 「ジャスティン・ヴォーランダーのプロ入り初のヘッドショット(スタジアム・ビジョン用の画像)を作ったのは俺なんだぜ!」と。
6月27日「NYC旅行記」 フロリダ・ステート・リーグのオールスターブレイクを利用し、マンハッタンへ旅行に出かけた。 今月は休みがなく、精神的に追い込まれていたので、「良いリフレッシュになれば良いな」とタンパ空港を飛び立った。 月並みではあるが、6日間のニューヨーク滞在中、私はリフレッシュ出来ただけでなく様々な方々から良い刺激をいただいた。実に有意義な休暇だった。 野球に関しては、ニューヨーク・ヤンキースとブルックリン・サイクロンズの試合に足を運んだ。 サイクロンズはあのブルックリン・ドジャースやニューヨーク・ジャイアンツの伝説を引き継ぐチームとして有名だ。噂では「物凄い」と言う話を聞いたことがある。 開幕戦と言うこともあり、前売りの時点で立ち見以外のチケットは売り切れだった。何がどのようにすごいのか、それを確かめるために生涯初めてブルックリンに足を伸ばしてみた。 結果、単刀直入に言うと、他のマイナーチームと違うことは特にしていなかった。むしろ音楽のタイミングや、ボリュームの間違いが目立った。 今シーズン初めての試合と言うこともあり、慣れていなかったのかもしれないが、それでも「物凄い」と言うものは感じなかった。 選手のパフォーマンスもフロリダ・ステート・リーグの1つ下のカテゴリーとは信じられないようなお粗末な内容だった。 唯一、違うと思ったことは、外野席の奥にサッカーのコートが1面取れるくらいの人工芝広場があり、子供達はサイクロンズそっちのけでその広場を走り回っていた。 子供は、ほぼ例外なく試合の途中で野球に飽きてしまう。飽きたら帰りたくなる。飽きたらもうスタジアムに来たくなくなる。でも、飽きがきても広場で遊べれば楽しいし、普段学校では友達になれない連中とも仲良くなれる。これはとてもいいアイデアだ。 サイクロンズのゲームを後にする際、前には遊園地、後ろにはアパート郡が見えた。下町生まれの私にとってはなんとなく懐かしい光景だ。 もちろん今はレイクランド・タイガースのために一生懸命働く毎日だが、近いうちブルックリンのような都会で働けたら良いなと、帰りの地下鉄の中で物思いにふけていたフロリダ・ステート・リーグのオールスターブレイクを利用し、マンハッタンへ旅行に出かけた。 今月は休みがなく、精神的に追い込まれていたので、「良いリフレッシュになれば良いな」とタンパ空港を飛び立った。 月並みではあるが、6日間のニューヨーク滞在中、私はリフレッシュ出来ただけでなく様々な方々から良い刺激をいただいた。実に有意義な休暇だった。 野球に関しては、ニューヨーク・ヤンキースとブルックリン・サイクロンズの試合に足を運んだ。 サイクロンズはあのブルックリン・ドジャースやニューヨーク・ジャイアンツの伝説を引き継ぐチームとして有名だ。噂では「物凄い」と言う話を聞いたことがある。 開幕戦と言うこともあり、前売りの時点で立ち見以外のチケットは売り切れだった。何がどのようにすごいのか、それを確かめるために生涯初めてブルックリンに足を伸ばしてみた。 結果、単刀直入に言うと、他のマイナーチームと違うことは特にしていなかった。むしろ音楽のタイミングや、ボリュームの間違いが目立った。 今シーズン初めての試合と言うこともあり、慣れていなかったのかもしれないが、それでも「物凄い」と言うものは感じなかった。 選手のパフォーマンスもフロリダ・ステート・リーグの1つ下のカテゴリーとは信じられないようなお粗末な内容だった。 唯一、違うと思ったことは、外野席の奥にサッカーのコートが1面取れるくらいの人工芝広場があり、子供達はサイクロンズそっちのけでその広場を走り回っていた。 子供は、ほぼ例外なく試合の途中で野球に飽きてしまう。飽きたら帰りたくなる。飽きたらもうスタジアムに来たくなくなる。でも、飽きがきても広場で遊べれば楽しいし、普段学校では友達になれない連中とも仲良くなれる。これはとてもいいアイデアだ。 サイクロンズのゲームを後にする際、前には遊園地、後ろにはアパート郡が見えた。下町生まれの私にとってはなんとなく懐かしい光景だ。 もちろん今はレイクランド・タイガースのために一生懸命働く毎日だが、近いうちブルックリンのような都会で働けたら良いなと、帰りの地下鉄の中で物思いにふけていた。 6月27日「監督業」 後半戦開幕直前に3選手がダブルAへと昇格して行った。 彼らは才能あふれる選手なので、きっとメジャーリーグの舞台に立つであろう。もう彼らのプレイが目の前で見ることができないのは残念だが、彼らの将来が輝かしいものになるよう私は願っている。 その反面、私はレイクランド・タイガースが一気に弱くなってしまうのではないかと心配していた。なにせ二遊間と最高の先発投手を持っていかれたわけである。 このチームのファンとしては悪夢のような状態である。(マイナーリーグ・チームの宿命だが…) しかしフタを上げてみれば、前半戦のチームと大差ないチーム力だった。 “極上”の二遊間から“上”の二遊間になってしまったが、その分前期に今ひとつ調子が上がらなかった選手たちが打ち出しカバーしている。 先発投手に関しては、二順くらい回ってみないと何とも言えないが、後半戦開幕シリーズ3連戦では、投手陣はそこそこやってくれている。 私はこの状態を見て、ミネソタ・ツインズのロン・ガードナー監督のことを思わずにいられなかった。 ツインズはご存知の通り、台所事情が厳しく、毎年有力選手を放出しなければならない。今年も走攻守揃った三塁手、コーリー・コスキーや快速遊撃手のクリスチャン・グズマンを泣く泣く放出している。 それでもここ3年ディビジョン優勝を繰り返している。きっとガードナー氏もこのようなマイナーリーグの宿命を糧に今のツインズを支えているのだろう。 良い選手をすぐに持っていかれてしまうマイナーリーグは、もしかすると監督にとっても技を磨く大事な舞台なのかもしれない。 6月13日「優勝!!」 デレック・ニコルソンが打ち上げたボールが、浅く守っていた外野手の後方に落ちる。打った瞬間走り出した3塁ランナーのホアン・フランシアはホームベースの前で飛び跳ねベースを踏む。 フロリダ・ステート・リーグ西地区前期優勝。 現段階で2位に6ゲーム差を付けるぶっちぎりの勝利だった。 この試合は「Kids Camp Day」と言うことで異例の午前11時プレイボール。 午前中に試合をするなんて自分自身が選手に戻ったような気分だった。 前日の夜9時半に試合を終えた。翌朝8時に球場入りしなければならなかったので、ベッドに入る前は正直、気分が憂鬱だった。しかし、このタイトルのおかげで、午前中の試合が病み付きになってしまうかもしれない。 シャンペンシャワーには少し遅れて入ったものの、後方から忍び寄る選手にシャンペンを頭からかけられた。 体中がシャンペン臭くなり、髪の毛はパサパサになったが、野球が好きな人なら誰もが感じるうれしい瞬間だ。 そして、選手からシャンペンをかけられたことで、僕のような裏方スタッフでもチームの一員と認めてもらえたように感じ、優勝の喜びがさらに膨らんだ。 前期優勝。そして、この先には後期もある。 僕の世代では、パ・リーグが以前、二期制を採用していたころをライブで見ていない。むしろJリーグのファーストステージ、セカンドステージの方がピンとくる。 今週末のフロリダ・ステート・リーグ・オールスターの後、後半戦が始まる。 私は鹿島アントラーズ、サンフレッチェ広島など、以前ファーストステージ制覇を達成したクラブのファンではない。だからステージ優勝後にセカンドステージを戦う歯がゆさは経験したことがない。 しかしその矛盾感をステージ制覇した者だけの特権だと思って、後期戦を楽しもうと思う。 狙うはもちろん完全優勝。その為にこれからも後方からがっちりサポートしていきたい。
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